有給の売り買いは都市伝説なのか
職場にもよりますが、「有給休暇」をすべて使い切ったことがある人は、意外と少ないのではないでしょうか。
コロナやインフルエンザなど、高熱を伴う病気でやむを得ず休むこともありますが、日々の業務や担当案件、会議や納期に追われ、「休みたくても休めない」という人も多いと思います。
私自身もありがたいことに体が丈夫で、病気で休むことはあまりありません。
そのため、特別な予定がない限り有給を取る機会が少なく、結果として毎年繰り越しを繰り返すタイプでした。
転職をする際も、有給が残っていたのに、引き継ぎや業務整理で使い切れずに退職日を迎えたことがあります。
そんなとき、ふと耳にするのがこの話題です。
「有給って会社に買い取ってもらえるんじゃないの?」
「有給を他の人に売ることってできないの?」
結論から言うと、
「有給の売り買い」は、法律上できません。
つまり、「都市伝説」です。
ここでは、人事・労務の経験をもとに、なぜ有給をお金に変えられないのか、そしてなぜそんな話が広まったのかを、わかりやすく解説していきます。

「そもそも有給って何?」を簡単におさらい
有給とは正式には「年次有給休暇(ねんじゆうきゅうきゅうか)」と呼ばれます。
会社に勤める人が働かなくても給料を受け取れる権利のことです。
たとえば、1日お休みを取っても、その日の分の給料は減りません。
この「働いていないのに給料が出る」ことから「有給」と呼ばれています。
法律(労働基準法第39条)では、
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入社から6か月働いた人
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そのうち8割以上出勤している人
には、10日以上の有給休暇を与えることが会社に義務づけられています。
有給休暇日数は一般的には勤続年数に比例して増加します。
つまり、有給は会社からの「ご褒美」ではなく、労働者が持つれっきとした権利なのです。
「有給を会社に売る」は原則NG
では、よくある質問である「有給を会社に買い取ってもらうこと」はできるのでしょうか?
結論は「できません」。
理由はシンプルで、
有給は「お金」ではなく「休む権利」だからです。
会社は「有給を取って休んでもらうこと」で、社員の心身のリフレッシュを促す目的を持っています。
そのため、休みをお金に換えることは、本来の目的に反すると考えられているのです。
ただし、例外的に認められるケースもあります。
それは、「退職時に残っている有給をまとめて消化できなかった場合」です。
このときに限って、会社が「残っていた日数分の給料」を支払うことが可能です。
これを「有給の買取」と呼ぶ人もいますが、厳密には「使いきれなかった分の清算」という扱いです。
ただし、退職者が清算を求めても法的にも会社が応じる義務はありません。
めったにないですが、会社が就業規則などの規則で残った日数分を買い取る制度を設けていない限り、実現することはないでしょう。
つまり、労使間で双方の合意が必要になるため、念のため就業規則を確認するのが良いでしょう。

「有給を他の社員に売る」こともできない
中には「自分は使わないから、同僚に売ってあげればいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。
しかし、これも法律で禁止されています。
有給は「個人の権利」であり、他の人と譲渡や交換ができない仕組みになっています。
つまり、「Aさんの有給をBさんが使う」といったことは不可能です。
実際の会社の人事システムでは、社員ごとに「有給残数」が個別で管理されているため、他の社員に移すこと自体ができません。
「有給を売れる」という話が広まった理由
では、なぜ「有給を売り買いできる」という話が広まったのでしょうか?
いくつかの背景があります。
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退職時の有給清算を「買取」と勘違いしている人が多い
先ほど説明したように、退職時に残った有給を給与として受け取った事例があり、それを「売った」と誤解しているケースがよくあります。 -
昔の職場文化や噂がそのまま残っている
数十年前は、明確なルールが今ほど整備されておらず、「退職金に有給分を上乗せしていた」会社も存在していたようです。
この名残が、今でも「売れる」という話として伝わっていることがあります。 -
フリーランスや個人事業主と混同している
会社員ではなく、個人事業主の場合は働いた分を自由に調整できるため、「休み=収入が減る」「働けばその分増える」という考えが一般的です。
この違いが、「働いていないのにお金がもらえる=売買できるのでは?」という誤解につながることもあります。

「有給を使い切った後に休む」とどうなる?
もし有給を使い切ってしまい、それでも休まなければならない場合は、「欠勤扱い」になります。
欠勤とは、会社の勤務日に出勤せず、かつ有給も使わない日のことです。
欠勤をすると、その分の給料は支払われません。
また、欠勤日数が多くなると賞与(ボーナス)や評価に影響することもあります。
ただし、正当な理由(病気や家族の看護など)があれば、会社に相談すれば柔軟に対応してもらえるケースもあります。
そのため、「無断で休む」ことだけは避けましょう。
「出勤簿」や「打刻」は正確に!
特に、みなし残業制度(固定残業代を含む給与制度)を採用している会社でも、出勤日数や勤務時間はしっかり記録されます。
遅刻・早退・欠勤の事実があると、その時間分の給与は減額されるため、出退勤の打刻は正確に行うことが大切です。

まとめ
「有給を売る」「買う」という話は、今もSNSや職場でたまに聞きますが、実際には法律上できない仕組みになっています。
しかし、有給が「ただの休み」ではなく、「働く人の健康と権利を守る大切な制度」であることを知ると、その考え方が変わってくるはずです。
人事・労務の現場で働いてきた経験から言えるのは、「有給を使う=会社に迷惑」ではないということです。
むしろ、休むことで頭と体がリセットされ、仕事の質が上がるならば有効活用すべきと考えます。
「売る・買う」ではなく、「しっかり使う」。
それが、今の時代の働き方に合った「本当の有給の使い方」だと思います。


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